やもりの観察日記

弾いて語る侍の掃き溜め

駅前の中華屋が潰れた

突然のことだった。気付いた時には解体工事は進んでいて、あっと言う間に見るも無残な姿になっていた。あたり一面ビニールシート(防音シート?)に囲まれているけれど、その中はきっと跡形もなくなっているだろう。実態の見えない消滅は、何だか薄気味悪い。

20年も地元に住んでいるくせに、その店に初めて来店したのは多分19の頃だったと思う。対して賑わいもしていない駅前に、どんとあるその店は、いかにも昭和という感じ。客の大半がスーツを着ていた。初めてここのテーブルについたとき、古臭いその店に通うサラリーマンの気持ちを一瞬で理解した。

人が飲食店に求めるものはそれぞれ違うだろうけど、私はその店に満足していた。カレーラーメンと、餃子定食が特に美味しかった。ご飯の量がいかにも学生向き、男性向きで、個人的にはとても嬉しかった。店主の方が気さくで素敵だった。そんな店が潰れた。

潰れる予兆は確かにあった。去年の夏を過ぎた頃、閉店時間が少し早まっていたり、臨時休業が増えたりしていた。かなりキツキツの営業そうだったから、短縮も止むを得ずかと思っていたが、今考えるとかなり無理をしていたような気がする。

実はその店のおやっさんに、バイトをしてみないかと持ちかけられていた。混む時間帯、数時間でもいいから、賄い付きで、と。映画やドラマで見るようなレトロさで、何となく醤油のシミが似合う、そんな店の店員になれるなら喜んで……とつい二つ返事で返してしまった。それがいけなかった。それから少し私が忙しくなり店にも行けず、しかしあんなこと言ってしまった手前どうにか自分の意思を伝えたくて、ただ時間だけが過ぎていく。日数が経つたびに気まずさが心に残り、自分の軽率さに胸が押しつぶされそうになった。そしてとうとう、お店は潰れた。

どうしようもない、自分のだらしなさで、勝手にがんじがらめになってしまった。あれから何も伝えられず、ついにあっけなくなくなった。ビニールシートの向こう側で、かつて店を構築していたはずのコンクリートたちは一体何を思っているのだろう。

壊された後、また新しく何か立つのかな。ひょっとしてこれはただの改装工事で、リニューアルオープンでもするのか……それはあまり期待できなさそうだけれど。

何にもない駅前のシンボルだったあのお店に、自分勝手ながら感謝を伝えたい。本当にありがとう。エビ餃子とにんにく餃子も美味しかった。でも、席にティッシュがなくて、机の上が餃子のタレやラーメンの汁まみれになってしまうのは、ちょっと良くなかったかも。そしてこれを、直接伝えられなくて、本当にごめんなさい。

 

次新しくできるなら、また美味しい中華屋さんがいいな。

 

お疲れ様でした。

また、どこかで。

 

 

2021年4月追記。

ファミマができました。のぉーん。